「うちの子は、いつになったら社会に戻れるのだろう」。そう考えて、「社会復帰」と検索した方もいらっしゃると思います。毎日の様子を見ながら、先のことが頭から離れない。その気持ちは自然なものです。

この記事の結論を先にお伝えします。厚生労働省の「ひきこもり支援ハンドブック」は、支援の目指す姿を「就職」や「外に出ること」だけに置いていません。本人やご家族が、自分の意思で、これからの生き方や社会との関わり方を決めていけるようになること(資料の言葉では「自律」)を目標にしています。この記事では、「復帰」という言葉をいったん置いて、公的資料に書かれている「社会参加」や「つながり」の形を整理します。

なお、いつ頃どうなるか、といった期間の見通しは、今回確認した範囲の公的資料では見つからなかったため、書いていません。

公的な資料は「ゴール」をどう書いているか

厚生労働省は、ひきこもり支援の考え方をまとめた「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」を公表しています。その第2章「ひきこもり支援の対象者と目指す姿」には、次の趣旨が書かれています。

  • 支援は、本人やその家族が、自らの意思により、今後の生き方や社会との関わり方などを決めていくことができるようになること(自律)を目標とする
  • 社会参加を実現することや就労することのみを、支援のゴールにはしない。自律に向かうプロセスとしてとらえる
  • 目指すのは、本人のペースに合わせながら進むこと。自律の形は一人ひとり違い、決まったものはない
  • 社会参加や就労は自律に向けた具体的な取組に含まれる。本人の自律的な決断として就労などの社会参加が選ばれることも少なくない

つまり、就労は選択肢のひとつとして位置づけられています。「就職できたかどうか」だけで状況を測る書き方にはなっていません。

同じ資料のQ&Aには、「社会参加の実現や就労を支援のゴールに設定してよいのか」という問いがあります。回答では、社会参加や就労を目指して支援することも大変重要としたうえで、まず本人が自分の意思や思いを決めていけるよう支えることが大切だと説明されています。また、就労や社会参加が実現したことで支援が完結するわけではなく、その後も継続して取り組むことが大切だとも書かれています。

ひきこもり支援の目指す姿を示した図。中央の「ひとりひとりのペース」から、家族との会話、外に出る、居場所、ボランティア、相談につながる、働く体験の6つが同じ大きさで並んでいる"“

「早く外に出てほしい」という気持ちについて

ハンドブックは、ご家族の焦りにも触れています。相談に来る家族の多くが「本人を早く外に出してほしい」「将来の生活への不安があるため、就労して自立してほしい」と望んできたこと、そして、本人は生きづらさや傷ついた経験の中で自尊心や自己肯定感が損なわれていることが多いことが書かれています。

そのうえで、家族や支援者から「外に出ること」「就労すること」を求められても、すぐに実現するのは容易ではない、という趣旨の記述があります。求めがあることでさらに傷つき、支援から遠ざかったり、相談した家族との距離が離れたりする例もあるとされています。「よかれと思って」する説得やアドバイスが、結果的に本人の力を奪ってしまうのは残念なことだ、という一文もあります。

これは、親御さんを責める文章ではありません。焦りは、お子さんの将来を案じているからこそ生まれます。ハンドブックの別の箇所には、家族は「早く解決してほしい」と願うものであり、支援は非常に長期間に及ぶこともあるため、相談しても何も変わらないと感じてしまう家族もいる、という趣旨の記述もあります。そうした気持ちが起きることは、支援の現場でも想定されています。

焦りが出てきたときは、焦りを消そうとしなくて構いません。ただ、その気持ちを、お子さんにぶつける前に、相談先や家族会など、別の場所で話せるようにしておくと、家の中の空気が少し軽くなることがあります。

「社会参加」にはどんな形があるか

ハンドブックには、支援の入口や最初の目標も多様であることが書かれています。就労や就学を最初の目標にすることもあれば、居場所につながることを目指すことも、別の支援機関につながることを目指すことも、支援者と本人がつながり続けることを目指すこともある、という内容です。

また、ひきこもり状態にあっても何らかの社会とのつながりがある人もいて、様子は「百人百様」だと書かれています。年代についても、10代や20代前半では、家族との関わりから何らかの社会参加を経験し、将来的な就労や経済的自立に向けて長期的な支援を検討することもある、とされています。40代・50代では、就労経験のある人もない人もいて、それまでの人生の歩みを尊重する支援が必要だとされています。

公的な制度や資料で確認できる範囲で、形の例を挙げます。順番ではありません。どれも、ひとつの「つながり」です。

家族との会話・関わり
ハンドブックでは、10代や20代前半の方について、家族との関わりから何らかの社会参加を経験していく流れが紹介されています。家族との日々のやりとりも、つながりの出発点になりえます。

相談機関につながる(本人でも、家族だけでも)
ひきこもりの相談窓口は、本人が行く場合もあれば、家族が先に行く場合もあります。ハンドブックには、結果として本人だけの支援、あるいは家族だけの支援が続くこともある、と書かれています。家族だけの相談にも意味がある、というのが公的資料の立場です。

居場所
ハンドブックによれば、居場所とは、自宅(自室)以外で、本人が安心や安全を感じられる「基地のような場所」です。何もすることが決まっていない居場所を求める人もいれば、目的を持って取り組む居場所を求める人もいる、とされています。そのため、既存の居場所に本人を当てはめず、本人が望む居場所を丁寧に確認することが大切だと書かれています。居場所を必要としない場合には、居場所支援が逆効果になることもあると注意されています。

当事者会・家族会
厚生労働省の「ひきこもり支援推進事業」では、市区町村における相談窓口の設置、居場所づくり、関係者間のネットワーク構築、当事者会・家族会の開催などが取組として挙げられています。

働くための準備や相談
就労を選ぶ場合の公的な支援もあります。たとえば、地域若者サポートステーション(サポステ)は、15歳から49歳までの、働いておらず、就学中でもない方を対象にした、厚生労働省委託の支援機関です。コミュニケーション講座、ジョブトレ(就業体験)、ビジネスマナー講座などのメニューがあります。ただし、メニューの種類や実施状況は、サポステごとに異なる可能性があります。利用前に、最寄りの窓口に確認してください。

また、生活困窮者自立支援制度には、任意事業として「就労準備支援事業」があります。就労に必要な訓練を、日常生活自立、社会生活自立の段階から有期で実施する事業です。ここでの説明は、厚生労働省「生活困窮者自立支援制度について」(平成27年7月)の資料に基づくもので、制度の最新の実施状況は確認していません。実施している自治体かどうかは、お住まいの自治体の窓口で確認してください。

「働く」を選ぶ場合でも、こうした入口が用意されています。ただし、これは本人が望んだときの選択肢であり、親から勧める順序を示すものではありません。

「進んでいない」ように見えるときの考え方

ハンドブックの「留意点」には、支援者向けではありますが、ご家族にも通じる内容があります。

  • 相談につながり、継続していることは、一進一退であっても支援が前進しているととらえることが大切で、苦しむ必要はない
  • 本人や家族に、右肩上がりの順調な歩みを押しつけると、支援の強要になってしまうことがある
  • 支援が「停滞している」「うまくいかない」と感じるのは、支援者が設定したゴールに対して、そう決めつけていることが多い

「スモールステップ」についても、ひきこもり支援は長期間に及ぶ場合が多く、少しずつ進めることになる、と書かれています。ひきこもり状態でも本人ができていることを認めることや、家族が関わり方を工夫している点に気づき、ひとつずつ評価していくことが、大きな力になるとされています。

この考え方に立つと、次のようなことも「つながり」の一部として数えられます。

  • 以前より、食事のときに顔を合わせる時間が少し増えた
  • 家族の呼びかけに、短くても返事があった
  • 夜、玄関先や庭に出てみた
  • 好きなこと(ゲーム、動画、絵、音楽など)の話を、ほんの少し聞かせてくれた
  • 親の側が、相談先に一度電話をしてみた

ハンドブックでは、家族以外とのやりとりがインターネット上のみの場合や、趣味や興味のある活動には参加している場合など、交流の形は多様であり、その範囲や意味は支援者が判断できるものではなく、人それぞれだとされています。画面の向こうにいる誰かとの交流を、一律に「つながりではない」と考えなくてよい、ということです。

ゆるやかに曲がる一本の道を、人が犬と歩いている風景の図。休む日があってもよい、少し戻ってもよい、つながり続ける、という三つの吹き出しが添えられている"“

「いつ復帰できるのか」に答えられない理由

最も知りたい問いは、「いつ頃、社会に出られるのか」だと思います。この点について、期間や成功率を示した公的な統計は、今回調べた範囲では確認できませんでした。そのため、この記事では見通しを書きません。

確認できたのは、次のことです。

  • ひきこもり支援では、状態にある期間は問わない。対象は、生きづらさを抱え、家族以外との交流が限られ、支援を必要とする本人や家族(世帯)であり、期間によって支援の必要性は変わらない(ハンドブック第2章)
  • 支援の過程は人によって異なり、同じ支援はない。「百人百様」「オーダーメイドの支援」が必要(同Q&A)
  • 厚生労働省の資料では、「ひきこもり支援に関する取組」のページに、令和4年度に内閣府が実施した調査(「こども・若者の意識と生活に関する調査」)で、15歳から64歳の50人に一人がひきこもり状態にあると公表された、と紹介されている(調査の原典は未確認)

つまり、ひきこもり状態は決して珍しいことではなく、一人ひとりの歩みも異なります。他の誰かの経過を、お子さんにあてはめて測る必要はありません。

厚生労働省は、ひきこもり経験者の歩みを集めた「ひきこもり経験者の社会参加の事例集」も公開しています。同ページには、誰一人として同じ歩みはない、という趣旨の説明があります。読んで、重なる歩みがあれば参考にしてみる、くらいの距離感で十分です。

今日できる小さな一歩

1回に全部やる必要はありません。ひとつだけ選んでください。

  1. 「どうなってほしいか」より先に、「今、できていること」をひとつ書き出す。 紙でもスマホのメモでも構いません。ハンドブックが挙げる「できていることを認める」の、最初の練習です。
  2. 相談先を調べておく。 お子さんを連れて行く必要はありません。ご家族だけの相談でも受け付けている窓口があります(下の「相談窓口」参照)。
  3. 自分自身のための時間をとる。 ハンドブックは、家族も自律することが望ましいと書いています。親御さんが少し休めることも、家庭にとって大切な土台です。

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※医師・公認心理師などの資格を持つ専門家ではありません。診断・治療などの医療的な助言は行いません。緊急のときは、記事内の「相談窓口」へご連絡ください。

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詳しい窓口の選び方は別の記事でまとめています。ここでは、この記事で触れた公的な窓口を紹介します。電話番号・受付時間は変わることがあるため、各窓口の公式サイトで確認してください。

  • ひきこもり地域支援センター: 全ての都道府県・指定都市に設置されたひきこもり支援の専門窓口です。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師などの資格を持つ「ひきこもり支援コーディネーター」が、本人やご家族の相談を受けます(厚生労働省)。一覧は、厚生労働省「ひきこもり支援に関する取組」のページから確認できます。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html
  • ひきこもりVOICE STATION(厚生労働省のポータルサイト): ひきこもりに関する基礎情報や全国の相談窓口が掲載されています。https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp
  • 自立相談支援機関: 市等に設置された、生活全般の困りごとの相談窓口です。ひきこもりの相談も受け付けています。継続的な支援や、すぐに就労が難しい方への支援、他の支援機関への橋渡しも行っています。
  • 地域若者サポートステーション(サポステ): 働くことに悩む15歳〜49歳の方の相談窓口です。https://saposute-net.mhlw.go.jp/
  • KHJ全国ひきこもり家族会連合会: 全国の家族会と連携する団体です(厚生労働省のページで紹介されています)。
  • よりそいホットライン(一般社団法人社会的包摂サポートセンター): 0120-279-338(フリーダイヤル)。電話のほか、チャットやSNSでの相談にも対応しています。受付時間は公式サイト(https://www.since2011.net/yorisoi/)で確認してください。

お子さんに、自分を傷つけるような言動や、ご家族への暴力があるなど、緊急性が高いと感じる場合は、ひとりで抱えず、警察(110)や救急(119)、お住まいの地域の相談窓口にすぐ連絡してください。

まとめ

「社会復帰」という言葉で検索すると、「元の場所に戻る」ことが目標のように思えてきます。しかし、厚生労働省のハンドブックが示す目指す姿は、就労や社会参加だけを求めることではなく、本人のペースに合わせながら、本人とご家族が自分の意思で生き方や社会との関わり方を決められるようになることです。家族との会話、相談先、居場所、働く体験など、つながりの形は人によって違います。見通しを示す公的な統計は、今回確認した範囲では見つかりませんでしたが、相談につながり続けていること自体が、前進のひとつとして位置づけられています。焦る気持ちが出たときは、親御さん自身が相談先とつながることも、立派な一歩です。

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出典

  • 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」第2章・第3章・第4章、Q&A(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html から公開)
  • 厚生労働省「ひきこもり支援に関する取組」
  • 厚生労働省「ひきこもり経験者の社会参加の事例集」
  • 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度について」(平成27年7月)
  • 厚生労働省 地域若者サポートステーション事業サイト「サポステとは」

いずれも2026年10月2日に確認しました。この記事は公的情報をもとに編集部が作成したもので、専門家の監修は受けていません。