「本人が相談に行こうとしない。誰かに家に来てもらうことはできるのだろうか」。そう考えて、訪問支援について調べている方もいらっしゃると思います。一方で、知らない人が家に来ること自体が、お子さんにとって大きな負担になるのではないか、と心配になる方も多いはずです。
先に結論を書きます。公的な資料には、ひきこもり支援には訪問(アウトリーチ)という方法があると書かれています。ただし、同じ資料に、訪問は本人の同意を得たうえで行うこと、会うことを無理強いしないことも、はっきり書かれています。訪問は、家族だけの相談から始まることもあります。ご家族が先に動くことにも意味があります。
この記事では、厚生労働省の「ひきこもり支援ハンドブック」(第4章)、厚生労働省の「ひきこもり支援推進事業」のページ、消費者庁と厚生労働省の注意喚起ページで確認できた範囲を整理します。訪問の頻度、期間、費用、成果については、今回確認した公的資料に記載がなかったため書きません。これらは自治体や窓口によって異なります。
“
訪問支援は公的支援のなかでどう位置づけられているか
厚生労働省の「ひきこもり支援ハンドブック」(第4章)は、相談を受ける方法として、来所、電話、訪問、メール、オンライン会議ツール、SNS などを挙げ、相談者が相談しやすい方法を工夫するよう書いています。訪問は、そのうちの1つです。
同じ章には、「アウトリーチ型(訪問型)の活動」についての項目があります。直接本人に会って話を丁寧に聞くことで、本人を取り巻く状況を理解し、意向を確認するには有効な手段、という趣旨です。そのうえで、訪問のタイミングや方法はよく検討する必要があるとされています。
制度の面では、厚生労働省の「ひきこもり支援推進事業」のページに、次のような記載があります。
- 都道府県・指定都市に「ひきこもり地域支援センター」が置かれ、社会福祉士、精神保健福祉士、保健師、公認心理師、臨床心理士等の資格を持つ「ひきこもり支援コーディネーター」が、ひきこもりの状態にある方やその家族へ相談支援を行い、適切な支援につなぐ。
- 市町村の「ひきこもりサポート事業」では、相談窓口の周知、実態把握、居場所づくり、ひきこもりサポーターの派遣などを行う。メニューは自治体が任意に選ぶ。
- 同ページには、8つのメニューの1つとして「サポーター派遣・養成事業」が挙がっている。
ここで注意したいことがあります。このページには、「ひきこもりサポーター」が具体的に何をするのか、どのくらいの頻度で訪問するのかは書かれていません。サポーター派遣を実施している市町村かどうかも、ページからは分かりません。また、ハンドブックには、ひきこもり地域支援センターが管内の市区町村に対する後方支援として、定期的な訪問支援を担うという記載があります。これは市区町村の支援者を支える役割の説明で、各家庭への訪問の仕組みを説明したものではありません。
つまり、訪問支援は公的な支援の方法の1つとして位置づけられていますが、どこで、誰が、どのくらい行うかは、お住まいの自治体の窓口に確認する必要があります。
「本人の同意」についてハンドブックが書いていること
訪問について、ハンドブックには次の趣旨の記述があります。
- 訪問する際は、家族を通じて、あるいは本人とすでにメールなどでつながりがある場合は直接本人に確認し、本人の同意を得たうえで実施することを忘れてはいけない。
- 本人の気持ちを無視し、会うことを無理強いしないよう留意する。
- 拒否がある場合、無理矢理訪問すると本人との信頼関係は築けない。支援者が一方的に行動を起こすことは控える。
- 明確な拒否がない場合も、同意したとは限らない。訪問者が来ても無理に会わなくてよいことを伝えてもらうことも、よい方法である。
ここには、少し分かりにくい点もあります。ハンドブックは、「来てもよい」という回答のほか、訪問の意向に対して明確な拒否がない場合や、反応がない場合を「消極的な同意」とする判断もある、と書いています。同時に、明確な拒否がなくても同意したとは限らない、とも書いています。
ご家族としては、「反応がないから大丈夫」と考えて進めるのではなく、「無理に会わなくていいこと」「いつでもキャンセルできること」を、本人に伝えてもらえるかを、相談員に確認してください。ハンドブックの事例の解説にも、訪問する旨を伝える際にキャンセルが可能であると伝えることが、本人の安心感につながる、という趣旨の記載があります。
また、ハンドブックは、自宅や自室への訪問はとても侵襲性の高いことでもある、と書いています。本人にとって安心・安全な場所に、人が入ることになるためです。この記事で「同意」と「本人のペース」を繰り返し書くのは、公的資料がそうしているからです。
家族だけの相談から訪問に至る流れ
訪問は、最初から始まるものではありません。ハンドブックには、家族からの相談で支援が始まった場合に、家族の求めにより訪問を計画することもある、と書かれています。本人と電話やメールでのつながりはあるけれど、まだ対面していない場合に、訪問を視野に入れることもあるそうです。どちらの場合も、実際に訪問するのは「本人の拒否がない」ことを確認してからとされています。
また、ひきこもり支援では、状況の把握やアセスメントに時間をかけること、支援は本人の意向やペースにあわせて進めるもので、緊急事態を除き、支援者の都合や判断でスピードを速める必要はないことも書かれています。相談から状況把握まで数年かかる場合もあり、一進一退でも、支援が失敗したとは限らないとされています。
「本人に会えない場合」の項目には、家族をとおしたアプローチも対応方法の1つとして挙がっています。ただし、そのアプローチが適切かどうかは、本人と家族の関係性を見て判断する必要があり、家族をとおしたアプローチは本人にとって非常に負担のあるものでもある、と注意されています。家族が本人の状況を理解し、反応がなくても家族から働きかけを続けることで、本人との緊張関係がゆるみ、本人の行動や言動が変わる可能性にも触れられています。
さらに、本人が訪問を拒否している場合でも、家族の来客として訪問することはあってよい、という記述があります。この場合は、自宅で家族と相談しながら、押しつけにならない程度に本人に声をかける、という対応が考えられるそうです。
流れとして整理すると、次のようになります。順番や内容は、窓口や状況によって変わります。
- 家族が窓口に相談する。本人が来られなくてもよい。
- 本人や家族の状況・背景を聞き取る。ここに時間をかけることもある。
- 家族の求めなどで訪問を検討する場合は、家族を通じて、またはすでに連絡がとれる場合は本人に直接、「訪問してよいか」を確認する。
- 拒否がないことを確認できた場合に、訪問の日時や場所、誰が行くかを相談する。
- 訪問のあとも、本人のペースにあわせて、ご家族との相談を続ける。
訪問を始める前に、家族と相談しておきたいこと
ハンドブックの記述をもとに、訪問を検討する段階で、相談員とすり合わせておくとよい点を挙げます。これは公的資料に書かれた支援者向けの注意点を、ご家族の目線で言い換えたものです。
会う場所を決めておく
ハンドブックは、自宅(自室)に訪問すると拒否される場合があるため、訪問先を自宅(自室)にするのか、自宅内の別の場所(リビング等)なのか、自宅以外の場所(公民館や公的な施設、近所の公園、人の目が気にならない落ち着く場所等)がよいのかを、本人の意思も踏まえて検討する、と書いています。
“
誰が来るか、誰と来るかを確認する
ハンドブックは、支援者が一人で訪問する場合も、ほかの支援機関の担当者と同行する場合もあるとしています。ひきこもりを経験し、今はピアサポーターとして活動している人が同行することも、有効な方法と考えられる、とされています。ただし、誰が来るのがよいかは、本人によって違います。事前に家族から様子を伝え、相談員と一緒に考えます。
会えなかった場合の進め方を決めておく
ハンドブックには、訪問しても本人に会えるとは限らないと書かれています。会えない場合の方法として、本人宛のメモを置く、手紙を書くといったことがありますが、それも一方的な押しつけや侵襲性の高い方法にならないよう注意が必要とされています。
メモに連絡先を書く場合の工夫として、「メールは相談員だけしか見ることはない」「匿名で連絡してもよい」と添える例が挙げられています。また、初回の訪問で、支援機関や支援内容のパンフレットなどを一方的に渡しても受け入れてもらえないことがあるため、支援を押しつけないようにする、とも書かれています。
家族から聞いた本人の情報の扱い方
ハンドブックには、家族から聞き取った本人の情報を、本人が話し出す前にメモや手紙、面談で伝えないようにすることが重要だ、という記述があります。本人の知らないところで望ましくない情報が家族から伝えられると、本人と家族の信頼関係に影響することがあるためです。相談の場で、ご家族は話しやすいことをそのまま話して構いません。そのうえで、「本人に伝えてよいこと、伝えないでほしいこと」を、先に相談員と決めておくと安心です。
会えなかったときの、ご家族の気持ち
ハンドブックには、家族の意向で訪問したものの本人に会えなかった場合、家族が強い焦りを感じることもある、と書かれています。その場合の相談では、なぜ会えないのかという原因探しに終始せず、これから何を行うかを話し合うよう意識するとよい、という趣旨です。訪問のあとに焦りや不安が出てくるのは、自然なことです。親御さんの対応が悪いから会えなかった、という意味ではありません。
事例集に見られるやりとりの例
ハンドブックには、事例集もあります。そのなかの1つ(事例6、20歳代)には、家族との面談を毎月続けたうえで、本人に「話したい」と伝えてもらう、という流れが載っています。本人の返事は「別にどちらでもいい」でした。相談員は明確な拒否がないと判断し、日を改めて訪問すると伝えてもらいます。当日は、部屋の扉の前から声をかけても応答がなく、自己紹介と連絡先を書いたメモを置いて帰りました。
その後、相談員は母親に「いつでも本人の気が向いたときに話ができればよい」「無理に会わなくてもよい」と伝えてもらうよう話しています。訪問から1週間ほど経った頃、本人からメールがあり、部屋を見られるのが嫌なので別の場所で話せないか、という内容でした。そこで、自宅から少し離れた公園で会う約束をしています。
この事例集の経過は、ある1つの場合を支援者向けに紹介したものです。同じ進み方になるとは限りません。ただ、1回目で会えなくても、メモや家族を通じた伝言、会う場所の変更など、本人のペースにあわせて関わり方を変えていく例として、読むことはできます。
民間の「ひきこもり支援」事業を利用するときの注意
ひきこもり支援を掲げて、独自の取り組みをしている民間の事業者もあります。この記事では、特定の事業者の紹介や推奨はしません。公的機関が出している注意喚起は、次のとおりです。
消費者庁のページには、ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業者との契約時や利用時に、対応が説明と異なる、途中で解約できないなど、契約や解約でトラブルにあった場合は、消費者ホットライン(局番なしの188)を使って、お近くの消費生活センター等に相談するよう書かれています。同じページと厚生労働省のページでは、ひきこもりに関する公的な相談窓口として、各都道府県・指定都市にひきこもり地域支援センターがあることも案内されています。
厚生労働省のページには、平成30年2月時点で、都道府県・指定都市のひきこもり地域支援センター等に寄せられていた民間団体とのトラブルの相談について、主な内容が書かれています。「高額な利用料、詳細不明な経費の請求」「不適切な対応や運営体制(強制的な利用、暴力、専門職がいるか不明など)」です。件数や内容は当時の調査によるもので、現在の状況を示すものではありません。
利用を考えるときは、契約の前に、本人の同意を大切にしてくれるか、費用の内訳は書面で分かるか、不安があるときは消費生活センターや、ひきこもり地域支援センターに相談できるか、を確認してください。契約や利用で不安を感じたときは、決める前に、お近くの消費生活センター等(188)に相談できます。
今日できる小さな一歩
- 「ひきこもり支援ステーション事業」や「サポーター派遣」といった言葉を、お住まいの市町村のホームページで検索してみる。見つからなくても、ご家庭に問題があるわけではありません。実施の有無は自治体ごとに違います。
- 窓口に電話するときの言葉を決めておく。「本人は今、相談に来られません。家族だけで相談できますか。訪問という方法は、うちの市ではありますか」で十分です。
- 窓口に聞きたいことをメモする。たとえば「訪問の前に、本人の同意をどう確認しますか」「会えなかったとき、どうしますか」「費用はかかりますか」。回答は自治体や窓口によって違うので、答えをそのまま聞いてください。
訪問を受けるかどうかを、今決める必要はありません。「訪問を使わない」という選択も、本人のペースを大切にした、1つの選択です。
ひとりで抱え込まず、話してみませんか
- 1回30分・無料
- オンライン・電話
- 入力は2分ほど
不登校支援の専門カウンセラーが、お話を伺います。1回30分まで無料です。
※医師・公認心理師などの資格を持つ専門家ではありません。診断・治療などの医療的な助言は行いません。緊急のときは、記事内の「相談窓口」へご連絡ください。
相談窓口
電話番号・受付時間は自治体ごとに異なるため、公式の一覧から探してください。
- ひきこもり地域支援センター(都道府県・指定都市): 厚生労働省「ひきこもり支援に関する取組」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html)から、連絡先の一覧を確認できます。訪問の実施についても、窓口に聞いてみてください。
- ひきこもりVOICE STATION: https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp の「全国の相談窓口」から探せます。
- 市町村の窓口: お住まいの市町村のホームページで、「ひきこもり 相談」と検索するか、福祉担当課に問い合わせてください。
- 消費者ホットライン: 局番なしの188。民間事業者との契約や解約でトラブルがあったとき、お近くの消費生活センター等につながります(消費者庁)。
- よりそいホットライン(一般社団法人社会的包摂サポートセンター): 0120-279-338(フリーダイヤル)。受付時間は公式サイト(https://www.since2011.net/yorisoi/)で確認してください。
自傷や「死にたい」といった言葉があるとき、暴力や虐待が疑われるときは、すぐに相談してください。生命に関わると感じる場合は、警察(110)や救急(119)に連絡してください。
窓口の選び方は、別の記事「ひきこもり支援の種類と相談先」でも整理しています。
まとめ
訪問(アウトリーチ)は、公的なひきこもり支援の方法の1つです。ハンドブックには、訪問は本人の同意を得たうえで行うこと、会うことを無理強いしないこと、拒否がある場合に無理に訪問しないことが書かれています。家族だけの相談から始まり、家族の求めで訪問を検討することもありますが、その場合も、本人に拒否がないことの確認が前提です。実施の有無、頻度、期間、費用は自治体や窓口によって違い、今回確認した公的資料には書かれていませんでした。まずは、ご家族が窓口に相談するところからで大丈夫です。
ひとりで抱え込まず、話してみませんか
- 1回30分・無料
- オンライン・電話
- 入力は2分ほど
不登校支援の専門カウンセラーが、お話を伺います。1回30分まで無料です。
※医師・公認心理師などの資格を持つ専門家ではありません。診断・治療などの医療的な助言は行いません。緊急のときは、記事内の「相談窓口」へご連絡ください。
出典
- 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」第4章 ひきこもり支援のポイント(https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001471260.pdf)
- 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」(概要版・事例集)(https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001471235.pdf)
- 厚生労働省「ひきこもり支援に関する取組」(ひきこもり支援推進事業)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html)
- 厚生労働省「ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業の利用をめぐる消費者トラブルに御注意ください」(https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/180305.html)
- 消費者庁「ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業の利用をめぐる消費者トラブルにご注意ください!」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_009)
いずれも2026年10月2日に確認しました。この記事は公的情報をもとに編集部が作成したもので、専門家の監修は受けていません。



